美人の中には、お化粧美人がいます。 早朝のラッシュアワー満員電車の中で、高齢者優先の座席に座って、傍目も気にせず、懸命にお化粧をしている若い女性がいます。 文庫本より大きな鏡をバックから取り出して、お化粧に余念がありません。 最初に、顔を作り、紅をさし、最後にまぶたとまつげのケアーをして、髪の毛を整えたから顔を少し左右に振りながらつくづくと鏡を眺め、満足したように化粧品と鏡をバックにしまうのです。 よほど急いで家を出てお化粧をしてないことが気になっていたのでしょう。一仕事終えたように、安らかな顔をして眠っているようです。 これから、何処まで行くのかわかりませんが、乗り越さないようにと祈る思いです。

 女性にとってお化粧は、命のようです。 家内に「一寸近くを散歩してくるから」と言うと、「一緒に行くから一寸待って」と言います。靴を履いて外へ出て、待って居てもいつまで経っても出てきません。しびれを切らせてもう一度家の中に入ってみると、家内は懸命にお化粧をしているのです。 「遅いじゃないの」というと、「女性には外へ出るときのたしなみがあるんですよ。」と言ってなおも続けている。もうあの辺まで行っていたかなと思いながら、テーブルの上に置いた合った読みかけの文庫本を手に取りました。 女性は棺桶に入って灰になっても自分の美しさを追求するそうです。

 それを見ながら遠い昔を思い出しました、亡き母が何処かへ一緒に出かけようと言ったときのことです。 子供は単純にすぐ出かけると思いますから玄関で待って居る。母は現れないのです。 父親なら行くぞと言えばすぐについて行かなければ「ぼやぼやするな」と、ビンタの一つも食らうので靴も十分に履かず、大急ぎでついて行きましたが、母の場合は全く違います。 家に入ると、母は普段着のまま丹念に化粧をしていました。それが終わると、着物を着替るのです。 母の出かける準備が、1時間ですんだら幸運なほうで、2時間待たされたことも度々ありました。 しかし、化粧して正装して出てくる母親は別人のように輝いていました。 お化粧は女性の大切な生活の一頁かも知れません。 「げに、恐ろしきは女女性の美に対する執念ですな」


    

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